【プロフィール】
石井 宏和(いしい ひろかず)
neeth(ニーズ)株式会社 代表取締役
1979年生まれ。北海道大学法学部卒。2007年にneethを起業。北海道の基幹産業である一次産業、特に農業の産業化を実現すべく、各種事業に取り組む。北海道の魅力・価値(ヒト・モノ)を全世界に発信し、北海道に必要な世界中のニーズをつなぐコンサルティングやプロジェクト開発に尽力している。
neethが2017年5月に、「食と健康」をテーマにした2つのプロジェクトをスタートさせる。同社は2011年に農林水産大臣賞を受賞した農山村と若者の交流促進事業「きたベジ」や、北海道の野菜に高付加価値を付けた「北の宝石野菜 Hokkaido Snow Jewels」のブランド開発など多数の取り組みを通して、北海道の魅力を発信する事業を展開してきた。新しいプロジェクトが生みだす可能性について石井代表に伺った。
――― これまでneethがやってきた事業とは、どんなつながりがあるのでしょう?
2011年の東日本大震災をきっかけに、安心で安全な食べ物を知る必要性がどんどん高まっているように感じています。「Snow Jewels(北の宝石野菜)」ブランドは有機的な栽培方法にこだわった生産者が作る高品質な食を提供していますが、その一方で有機野菜の定義のあやふやさや、遺伝子組換食品を巡る議論に愕然としたりもしました。それらが悪いと決めつけることはできないのですが、消費者が正しい情報を知り、自分や子ども達が口にする食を 見極める知識を身に付けないといけないのではと考えるようになりました。
「Snow Jewels」は商品開発と流通開発をメインにしていましたが、それを発展させて人が交流する場と情報発信を絡めながら新たなコミュニティを創り出そうと…。
―――食の情報の大切さについてはわかっているのですが、なんだか難しそうなイメージがありますが…
わたしもそう思います。だから、難しいイメージを和らげる情報発信の方法や、頭で考えるのではなく楽しみながら、知識を増やしていくアプローチをしようと考えたのが「メディファームプロジェクト」です。
このプロジェクトの中で「北の宝石野菜」を生産している農場で食づくりをリアル体験する場と、これまでとは少し視点を変えた方法で食や健康について情報発信するメディア「Angle(アングル)」を創りました。共通するキーワードは「楽しむこと」「感動すること」です。
情報発信サイト「Angle」のコンセプトは、『これまでになかった角度から「食」や、食と関係が深い「健康」「美容」にアプローチする』こと。5つの視点と角度(Angle)から、わかりやすい言葉と楽しくなるようなビジュアルで、ゆるやかで優しい食の総合メディアとして情報を発信しています。
―――5つの視点と角度について、もっと詳しく教えてください
「1.食の文化を探す話」「2.食の達人たちの話」「3.食を科学する話」「4.食と健康の話」「5.食とライフスタイルの話」の5つ視点です。これまでにその道の専門家に食にまつわる話を取材しました。たとえば、「達人たちの話:海を渡ったイタリア人チーズマスター、北海道3年目の挑戦」、「食と健康の話:匠の手を持つ脳神経外科医から見た『食』。その常識、考え直してみませんか」などです。
今後も美容研究家、料理研究家、食品業界、児童教育関係者、農業技術者、地域の 観光に携わっている方など食に関連する幅広い専門家の方に話を伺っていく予定ですが、専門分野について突っ込んで聞くというより「えっ!何それ?」みたい に以外な角度から聞いた驚きがある話を紹介することを目指しています。宇宙開発の視点から北海道の食を語るみたいない切り口も面白いですよね。
―――宇宙開発と北海道の食?面白そうな話題ですね!
でしょう(笑)。「Angle」の読者は、食育に関心が高い子育て中の女性や美容に関心がある女性、健康に関心が高い熟年世代などを想定していますが、食に興味を持っていただければどの年代でもOK。 興味を持つきっかけになれば、入り口はいくつあってもいいかなと。お好きな入口からどうぞ!というファジーな緩やかさも持たせています。始まったばかりの プロジェクトですので、最初からターゲットを絞らずにいろいろなチャレンジをしながら柔軟に対応していこうと思っています。
「Angle」内のグラフやイラストは、子どもや日本語がわからない外国の方が見ても楽しめる ように工夫しています。見ているだけでワクワクして何となく内容を理解してもらえるように「インフォグラフィック」というデザイン手法を取り入れました。 インフォグラフィックとは、情報やデータを視覚的に伝えるというやり方です。グラフ1つを完成させるにも、デザイナーに何パターンも提案してもらって、こだわって作り込んでいるんですよ。
農業体験観光「FARM FES(ファームフェス)」で大切にしているのは『リアル体験&食べる』こと。農業体験観光は、これまで私たちのプロジェクトでつながりがある伊達市、札幌市・小金湯の2地域でスタートさせます。都市部に住んでいる観光客向けに団体や小グループ・個人などのニーズ合わせたツアー商品開発に力を入れていく予定です。もうすでに、今年8月後半実施を目指してプロジェクトが動き出しています。
小金湯では外国人向けにミニトマトの収穫体験ツアーを実施したことがありますので、外国人誘致を目的にしたプログラムも行っていきます。
―――農業体験は外国人の方も楽しんでいましたか?
すごく楽しんでいましたよ。これまでにシンガポール、台湾、タイの方などをご案内しました。中国の方にフルーツトマトの試食を体験していただいたときは、滞在時間中ずっと食べ続けていましたし…。(笑)。
アジアの観光客が多いので、北海道の冬体験も絡めてハウス栽培のトマト収穫体験ツアー企画も考えていきたいですね。
農業体験の参加者募集や体験状況の紹介を「Angle」で行えば、相乗効果を生みだす可能性も高いはず。トマトを美味しそうに食べている写真を見て、「北海道の農場でトマトを食べたい」と思っていただければ嬉しいです。トマト以外にアスパラ、トウキビ、ジャガイモなど、果物はサクランボ、リンゴ、イチゴの収穫も可能ですし、農業体験以外に料理やバーベキュー体験もできます。「Angle」と同じように「FARM FES」もいろいろな角度からアプローチしていきます。
―――北海道といえばトウキビやジャガイモは定番ですね
北海道産の厳選野菜には、世界中の人が北海道ファンになっていただけるだけの可能性があると思っています。トウキビ・ジャガイモといえば北海道のイメージがある方が多いですよね。北海道のアスパラの香りも味も甘みの強さも断トツだと思います。私は「Snow Jewels」を通して、その魅力を知りました。
今後さらにその魅力を高め、安全で機能性の高い加工食品の開発や新しい分野の商品開発に力を入れたいですね。
アメリカでは、産地に光を当てファンを生みだす農業システム「CSA(地域に支えられた農業)」にふれることができました。このプロジェクトの場合では、地域の人々に代わって各事業から生まれる国内および海外の産地のファンが道内の生産者(産地)を支えるという構図になっています。
―――「地産地消」がさらに発展したようなイメージでしょうか?
そうです。全国各地および海外のファンを増やすための切り口が「食と健康」というわけです。そのためには「Angle」での情報発信も必要ですし、「FARM FES」での体験、「Snow Jewels」の商品アイテムの拡充も必要です。3つの柱があることで、メディアファームプロジェクトの展開を加速させることができます。
「FARM FES」に関わる生産者の方にも、自分が育てた農作物について熱く語るといった演出や、生産ストーリーをドラマチックに演出して伝えるといった脚色も盛り込んで関わっていただきます。テレビ番組で例えるなら、NHKの「プロフェッショナル」やTBSの 「情熱大陸」のような…。生産者の背景情報や思いなども盛り込んで伝え、交流を深めることで体験者も感情移入しやすくなりより強いインパクトの記憶が残るはず。自宅に戻っても北海道での感動体験を思い出してほしいです。そのためには、リアルな食文化を楽しく体感することが重要と考えています。
―――わかります。スーパーの野菜も生産者の写真が入っていることがありますが、それ以上のインパクトですよね
食の生産者の顔が見えると消費者の安心感が増すと同時に親しみも湧いてきます が、今回のプロジェクトでは実際に交流していただく機会を提供するため生産者との距離がグッと近くなります。親しみをもち、産地へ興味を持ってもら えるまでに発展させることがこのプロジェクトの目的ですから。そうすれば自然な形で正しい食の知識も伝える目的も、産地を活性化させる目的の両方につなげられると思います。
―――農場で酵素たっぷりのローフードを食べられるのも魅力がありそう
もちろんです。美容やエステなど細かいニーズに対応する体験プログラムも検討していきます。そのために専門家の協力体制も整えています。「Angle」で取材させていただく各分野の専門家とのつながりを強化して、さらに新たなサー ビス提供へ広げていくことも可能です。北海道内でこのプロジェクトに共感していただける専門家やバイヤー食品加工業者やメーカー、観光関連会社、大学など とも新しい取り組みを考えています。道外のパートナーとも交流しながら、ビジネスマッチングもしていく計画です。
「メディアファームプロジェクト」のアドバイザーとして、世界的に有名な脳外科医・上山博康先生や美容研究家の佐伯チズさんに参加していただいています。お2人には、健康教育事業で、子育て世代の女性、美容に興味を持つ女性、健康意識の高い熟年層などをターゲットに、温泉や施設、農場などでの美容・医療体験プログラムの開発に協力していただく予定です。
将来的には「Angle」や「FARM FES」 で創出させた北海道ファンからニーズを掘り起こす仕組みも考えて行きたいですね。そうなれば、コンサルティング分野でも新たな提案が可能になりますか ら…。農場だけでなく他の事業体のサービスモデルも創出できます。とはいえ、最初は私たちも楽しみながら北海道ファンを増やしていくことに力を入れていき ます。いろいろな広がりも含め、北海道の魅力をトータルで高められるプロジェクトへ成長させていきたいです。
neethが北海道の食に取り組んでから今年で10年目。2016年は節目となる10期目を迎えます。その節目に実施する「メディアファームプロジェクト」が、当社だけでなく「北海道の食と農」に化学変化を起こしていくきっかけになればうれしいですね。
※このプロジェクトは、ヘルスケア関連産業において「健康」をキーワードに商品やサービスの創出を支援する、札幌市の「平成27年度健康関連産業ビジネスモデル構築支援・採択事業」に選ばれています。
今後プロジェクトのフロントとして実行にあたる、ニーズ株式会社 上山氏
HOKKAIDO SNOW JEWELS
http://www.snow-jewels.biz
NEETH 株式会社
http://neeth.biz
ANGLE
http://angle-media.jp