札幌・市電通り沿いの純喫茶「声」(札幌市中央区南1西9、TEL 011-231-1329)が12月21日、店の立ち退きのため、創業48年の歴史に幕を閉じる。
立ち退きの話を聞きつけ贈られてきた花に囲まれる店主・猪狩和枝さん。「開店祝いの花なら聞いたことはあるが閉店祝いは聞いたことがない(笑)」と笑う
同店は1964(昭和39)年12月に開業。石炭の運送業を行っていた猪狩さん夫妻が「石炭から石油を使う時代へ移り変わる節目だった」と、当時はまだ喫茶店の文化も浸透していない時代だったが、一念発起して店を始めた。店名は占いの「八卦(はっけ)」を基に「客商売で声を掛け、声が掛けられるように。声が長生きする店になるように」との思いで名付けた。現在はビルに囲まれている同店だが、開業時、周辺には店も家もほとんどなく、ススキの生える平野だったという。今でも同店の外観は当時の町並みをそのままに、昭和の雰囲気を残している。店内では、開店時からのテーブルや椅子を使い続け、壁材の松の木は「最初は真っ白だった」というが、今では年月を重ねて濃い茶色に染まっている。
店主の和枝さん(75)は、結婚前から経営していた珠算塾や華道教室を掛け持ちしながら店を切り盛り。明るく社交的な性格で徐々に常連が付き始め、大人から高校生までが集う場となった。歌声喫茶が流行(はや)ったころには、カラオケができると思った客も多かったという。
メニューは、「サンドイッチやトーストなど軽食のみが定番だった」という当時から、ナポリタン、ミートソーススパゲティーなども提供。「当時は珍しい食べ物で、うどんのような太い麺を使うのが特徴」という一品は、現在も変わらずに昔ながらの味わいを作り続ける。「飲みやすさを考慮した」というコーヒーは、酸味が少なく、苦味と深みを持たせた味わいに仕上げる。カップは岐阜・多治見の「前畑商店」で仕入れ、冷めにくい作りになるよう分厚い特注品のカップを使い続ける。
立ち退きが決まって以来、店には普段以上になじみの客が駆け付けた。開店当初からの常連客という男性は「寂しいの一言。ここの常連は変わらないし、本当に愛され続ける店。ママもマスターも昔からの付き合いで家族付き合いみたいなもの。これからどこでお茶を飲めばいいのか」と悔しさをにじませながらも、「21日までずっと通う」と同店へ熱い思いを語った。
これまでを振り返り、「感謝の気持ちでいっぱい。本当にそれだけ」と和枝さん。「50年までは続けようと思っていたので一抹の寂しさはあるが、去るもの後を濁さずという気持ち。48年間はあっという間で昨日のことのように思い出せる。惜しんでいただける声は一生の財産。健康に生んでくれた親に感謝。この不景気にここまで続けて来られたことに感謝。本当にありがとうございました」とこれまでの日々に感謝の言葉を募らせた。
営業時間は8時~18時(土曜は17時まで)。日曜・祝日定休。