特集

札幌から生まれる「アウトサイダーアート」の可能性

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――「OUTSIDERS CROSS HOTEL」が問いかける、新たな境界とは――
街に生まれる「非日常」の視点


クロスホテル1202号室

ストリートアートと聞くと、落書きやゲリラ的な表現を思い浮かべる人も多いかもしれません。しかし、世界にはバンクシーやシェパード・フェアリーのように、街そのものをキャンバスにし、社会へ鋭いメッセージを発信し続けるアーティストがいます。こうした「アウトサイダーアート」には、既存の価値観を揺さぶり、人々を巻き込む力があります。

NYの街並みに突如現れるMAGIKのアート(写真提供=Magik)
NYの街並みに突如現れるMAGIKのアート(写真提供=Magik)

札幌でもこの「アウトサイダー」の視点をまちづくりやカルチャーに取り入れようとする動きが生まれています。その中心にあるのが、2月28日~3月2日にクロスホテル札幌で開かれた「OUTSIDERS CROSS HOTEL」。ラグジュアリーなホテル空間とストリートアートを融合させることで固定観念を覆し、訪れた人に「非日常」を感じてもらうことを狙い開かれました。


1202号室の水回り

1.2拠点での開催:「OUTSIDERS CROSS HOTEL」×「OUTSIDERS MISC」

クロスホテル札幌のイベントと連動する形で、アートギャラリー「misc.」でも2月22日~3月1日に「OUTSIDERS MISC」が開かれました。2つの拠点を連動させることで、街全体ににぎわいを生み出すことを目指しました。

異なる空間の融合

ホテルの洗練された雰囲気と、アウトサイダーアートの荒々しさが交錯するクロスホテル札幌。一方、「misc.」ではアップサイクル作品やライブペイントの展示を行い、それぞれの特性を生かしながらも互いに補完し合う形を取りました。


展示と制作を同時に開催

2. アップサイクルアート:廃材が生まれ変わる

「使い捨て」から「再創造」へ。持続可能な価値を発信するアップサイクルアートは、今回のイベントの大きな柱の一つでした。

ホテル廃材を新たな形に

クロスホテル札幌の客室やレストランで不要になった家具や食器、紙類などをアウトサイダーアーティストが手がけ、アート作品として再生させました。本来なら捨てられるはずの素材が新たな命を得る過程は、サステナブルな社会を考えるきっかけにもなりました。

中華料理で利用していたバットを工具やアウトドアのギアが入れられるケースへ

中華料理で利用していたバットを工具やアウトドアのギアが入れられるケースへ

持続可能なライフスタイルの提案

「廃材をアートに変える取り組みを通じて、来場者や宿泊客に持続可能な暮らしのヒントを感じてもらえれば」とホテル関係者。イベントの定期開催も検討されており、ブランド価値の向上にもつながる取り組みとして期待されています。

創作の過程を発信

アーティストが廃材に色を加え、形を整えていく様子を動画や写真で記録し、SNSや特設サイトで発信。作品の一部はNFT(非代替性トークン)化も視野に入れ、デジタルアート市場への展開を目指しました。「札幌発のサステナブルアート」として、国内外のファンに届けることを狙います。

3. ライブドローイング:驚きと体験を提供

イベント期間中、クロスホテル札幌ではライブドローイングが行われ、街中がその熱気に包まれました。通りすがりの観光客も思わず足を止め、スマートフォンを構えます。宿泊者や地元の人々も、刻々と変化するキャンバスの前で息をのみました。


クロスホテル12階のエレベーター前で行われたライブドローイング

創造の瞬間に立ち会う

クレヨンやキットパス、ペンを用いて、色とりどりの線が少しずつ重なっていく。描く度に形が変化し、描き手の個性が表れていく。アーティストの手元から生まれる造形に、観客は引き込まれていきました。「今、この瞬間でしか見られないアートが生まれている」――その場にいた人々は、そう感じたでしょう。


壁紙の素材にキットパスでアート

misc.――「才能を再定義」するということ

「OUTSIDERS CROSS HOTEL」のアートディレクションを手がけたのが、DENが運営するアートギャラリー「misc.」です。DENは「世界に、天才を増やせ」というスローガンを掲げ、埋もれがちな個性をアートとして開花させる活動を続けています。障害者支援事業やゲストハウスの運営にも携わり、多様な視点から新たな才能の可能性を広げています。

アウトサイダーアート×スケートボード

アウトサイダーアート×スケートボード

「才能を再定義」するということ

生まれ育った環境や社会的な立場に関係なく、誰もが自分の才能を発揮できる場をつくる。misc.はそんな思いを原動力に、埋もれた個性をアートとして引き出す活動を続けています。

「理屈抜きで素晴らしい」と感じるものには、既存の評価軸を超えた価値が宿る。もし、これまで見過ごされてきた表現が人々の心を動かすならば、それこそが「才能」と呼べるのではないでしょうか。

評価されにくかった個性を、新たな才能として世に送り出す。私たち自身もまた、思い込みや先入観を取り払い、未知の可能性と向き合い続けることで、その瞬間に立ち合いたいと考えています。

アウトサイダーアート×ギャラリー
アウトサイダーアート×ギャラリー

クロスホテル札幌×misc. がもたらす可能性

北海道が持つ豊かな自然や食文化に、ストリートアートという「都市カルチャー」をかけ合わせる。クロスホテル札幌とmisc.が生み出したのは、「ラグジュアリー」と「アウトサイダー」が交わる、新しい驚きの形です。

地域企業・メディア・観光産業との連携

このイベントをきっかけに、ホテルや飲食店、アーティスト、地元のギャラリー、さらには札幌経済新聞などのメディアとの連携が生まれました。これが札幌独自のアートシーンを育て、新たな観光誘客や街の活性化へとつながる可能性があります。

サステナビリティーと地域貢献

これまで、ホテルで発生する廃材は処分されるのが一般的でした。しかし、アウトサイダーアーティストの手にかかれば、それらは新たなアート作品へと生まれ変わります。

廃棄コストの削減にとどまらず、施設の環境負荷を軽減し、サステナブルなブランドイメージの向上にも貢献する。さらに、再生された作品をホテルのロビーや地域のギャラリーに展示することで、循環型経済を推進しながら、未来の暮らし方を提案する機会にもつながります。

アウトサイダーアートがもたらすまちづくりの可能性

世界の都市では、ストリートアートが観光資源として活用されています。例えば、オーストラリア・メルボルンでは、街の至る所に描かれたウオールアートが観光客を呼び込み、地域経済を支える存在となっています。現地政府も「レーンウェーアート」として公式に推進し、街の文化を支えるインフラの一部として認められるまでに発展しました。

メルボルンでは、ウオールアートを目当てに訪れる旅行者が年間数百万人規模に上り、観光産業の柱となっています。


メルボルンの街並み

札幌でも、「アウトサイダーアート」を取り入れることで街の魅力をさらに高め、地域経済を活性化させることができるかもしれません。SNSとの相性も良く、若い世代や海外からの旅行客を引きつけるアートとして、街全体の雰囲気を変える力を持っています。

もともと北海道には、豊かな自然や食文化といった「強み」があります。そこにストリートアートやアップサイクルアートの要素を加えることで、「ラグジュアリー」と「アウトサイダー」が交差する、新たな発見が生まれるのではないでしょうか。観光客にとっては、インスタ映えするスポットや体験が増え、街全体が「フォトジェニックなミュージアム」となる可能性もあります。

編集後記:境界を越えるエネルギー

「OUTSIDERS CROSS HOTEL」は、ホテルのラグジュアリーな空間とアウトサイダーアートという異質な要素を融合させ、アートの境界線を問い直す試みです。既成概念を超えた先に生まれる刺激が、札幌の街全体を巻き込み、新たな才能やカルチャーを芽吹かせるきっかけとなることを目指しています。

部屋に入った瞬間の高揚感、街角で繰り広げられるライブドローイング、ホテル廃材のアップサイクルアートによるサステナブルな価値創造――この一連の流れは、やがて人々の心を揺さぶり、大きなムーブメントへと成長していくかもしれません。「アウトサイダー」という言葉にはネガティブな印象もありますが、そこには既存の枠組みを超え、新しい視点を提示する力があります。

「境界を越えるエネルギー」が、これから札幌の街をどのように変えていくのか。その行方を、引き続き見守っていきたいと思います。

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